こころのプラネット

間違った生き方や考え方が自分を苦しめていた・・・ 不安障害で苦しんだ当事者が出会ったこころの真実。森田療法を中心に、マインドフルネス・仏教心理学などを通して 苦しみの本質に気づき、とらわれのないこころのあり方さぐります。

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「恐怖突入」の意味

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不安・恐れに直面する

あなたが不安に感じたり恐れていることは?

あなたにとって不安や恐れとは何でしょう?そして、それを感じた時、あなたはどうしていますか?

さまざまな状況で私たちは不安や恐怖の感情に襲われます。例えば、恐れていることや場面に直面しなければならない時、苦手な人と会わなければいけない時、自信がないことに挑戦する時、未知のものに立ち向かう時、過去のつらい経験を思い出す時・・・

一時的な安心を得たい

もし、恐れている場面が自分を待ち受けているとすれば、誰でもそこから逃げだしたくなります。自分なりの言い訳を作って直面することを避けたり、そこから目をそむけたり、先延ばしにしたり、問題をすり替えたり、さまざまな行動をとります。それを回避行動・逃避行動・安全確保行動と言います。「はからい」とも言います。恐れていることに正面から向き合わないでそれを避けようとする行動です。

つまり、私たちは不安や恐怖を感じた時、「そこから逃げたい」「一時的な安心を得たい」と無意識にこうした行動をとります。
こうすることによって何とか心の平安を保とうとしているのです。

不安・恐怖にとらわれる

一般的には、こうした行動は特に異常というわけではありません。誰にでもあることであり、時間が経てば知らないうちに忘れてしまうからです。

しかし、場合によってはこの回避・逃避・安全確保といった行動(はからい)がむしろマイナスに働くこともあります。つまり、不安や恐怖に強く「とらわれ」てしまい、常に回避・逃避・安全確保といった行動に振り回されてしまう時です。

「はからい」にエネルギーを浪費

例えば不安障害は、この不安や恐怖に強く「とらわれ」ることによって起きる障害です。

不安障害に悩む人たちは毎日さまざまな場面で不安や恐怖を感じています。そのため、その不安・恐怖を回避・逃避する「はからい」に日々大きなエネルギーを費やしています。ですから、一日中心の休まるヒマがありません。

回避・逃避がマイナスに

例えば、対人恐怖の人であれば、人と会うのを避けるためさまざまな言い訳を用意する。パニック障害の人であれば、外出を避けるため忙しいふりをする。強迫障害の人であれば、ガス栓を閉めたかどうか何度も確認をしたり、手洗いを繰り返す。自分の言葉が人を傷つけたのではないかと何度もその場面を確認する、といった強迫行動(安全確保行動)を毎日のように繰り返しています。いわば儀式的・無意識的にやってしまうそうした行動で、とりあえずの不安を回避しようとしているのです。

しかし、そうした回避・逃避・安全確保・強迫といった「はからい」こそが、症状を維持させ、より一層強めてしまう大きな要因なのです。

なぜ「はからい」が、不安・症状を強めるのか

負の強化

なぜ、「はからい」が症状を維持させ、より一層強めてしまうのでしょうか。

行動療法では、回避や逃避・安全確保・強迫といった行動(はからい)は、「負の強化」につながると言います。「負の強化」とは、「取り除かれることで行動が増える」ことを言います。

例えば、頭痛がする時に薬を飲んで治まった(取り除かれる=負)経験があると、次に頭痛がした時にすぐに薬を飲みたくなります。そして、それが高じるとついつい薬に頼ってしまう(行動が増える=強化)という習慣が出来てしまいます。

今回の例で言えば、回避や逃避など嫌なことを避ける(取り除かれる=負)行動が度重なると、症状がどんどん強くなる(行動が増える=強化)ということです。つまり、「はからい」の行動が不安を育て、維持させ・増大させる結果を生み出しているということです。

不安・恐怖の根源

死に対する恐怖

私たちの不安・恐怖の根源にあるのは死に対する恐怖です。ですから、私たちはそれを本能的に恐れ、排除しようと考えます。しかし、死は誰もが免れることが出来ない事実であり、この恐れの感情も実は自然なものです。

人間の自然な心を肯定

森田療法を創始した森田正馬は自ら深い悩みを経験する中で、私たちは 「死を恐れないことはできない」。しかし、かと言って 「生きること(欲望)をあきらめることもできない」ということを悟りました。

つまり、「死を怖い」と思うのも、「よりよく生きたい」と思うのも、ともに人間の自然な心であり、私たちはその二つとも認めざるを得ないということです。つまり、「恐がりながら生きる」というのが人間の本来の姿であり、森田はそれを認めた上で、そこからどう生きていくのかを教えてくれるのです。

森田の恐怖突入

恐怖突入とは

それでは、不安や恐怖を感じた時、私たちはどのような行動をとればいいのでしょうか。

森田療法では、それを「恐怖突入」という言葉で表現しています。

恐怖突入の本当の意味

仕方ないとそのまま受け止める

では、恐怖突入にはどんな意味があるのでしょうか。森田は恐怖突入の意味をこう説明しています。

森田:「苦痛の中にたたずみ、苦痛そのままになった時には、もはや自分には苦痛というものは見えない」「立って汽車が走るのを見れば、その速度を感じるが、汽車に乗ってしまえば、自分でそれを感じることができない。恐れもそのままになってしまえば、いかに大きな恐れでもこれを感じることができない」。

 

いわゆる「捨て身の心境」と述べています。つまり、「恐怖突入」とは、その恐怖を「克服」しようとするものではなく、むしろ恐怖に抗わずに(“恐れもそのままに”)、仕方ないと「そのまま受け止める」ことを意味します。

”恐れもそのままになってしまえば、いかに大きな恐れでもこれを感じることができない” というのは、「恐れ」という汽車に乗ってしまったのだから、飛び降りるわけにもいかずそれに乗っているしか仕方がない、つまり、そのまま受け入れるしかないということになります。それが “捨て身の心境” という意味であり、「恐怖突入」だというのです。

思い込みと事実の違いを知る

さらに、森田はこう言っています。

森田:「自分が思い込んでいる “恐れている事態” が実際には想像とは異なるということを、理屈ではなく身体で体験させてくれるのが “恐怖突入” である」。

 つまり、「恐怖突入」とは、これまで自分が感じていた不安や恐怖は「思い込み」(想像)であり、その「思い込み」と実際の場面で「体験した」事実は違うということを知ることです。不安や恐れの本当の姿を知るということです。言いかえれば「認知の修正」と言ってもいいかも知れません。

もちろん、差し迫った本当の恐怖(恐怖の実態が存在する)というものもあります。その場合は、それを取り除かないことには問題は解決しないかもしれません。

しかし、不安障害の人が感じている不安や恐怖は、もともと「自分が恐ろしいと思い込んでいるもの、自分の心が引き起こしたもの」、要は主観的なものであって、外部に存在する脅威というというものではないということです。

不安障害では「予期不安・予期恐怖」という言葉をよく使います。「こうなるのではないか」という「思い込み」による不安や恐怖のことです。森田は実際の恐怖と「思い込み」の恐怖の例をがん恐怖症の人の例で説明しています。

がん恐怖症の人が実際にがんになってしまうと、がん恐怖症は治ってしまうというのです。つまり今までは「がんになったらどうしよう」と恐れていたものが、いざがんになってしまうと、それどころではない、その病気「そのもの」と闘う(或いは共存)しかなくなってしまうからです。

森田は恐怖突入を、「ライオンのいる檻の中に入っていくのではなく、ライオンがいると信じ込んでいる空の檻に入っていくようなもの」と表現しています。

認知行動療法からの視点

「恐怖突入」と「エクスポージャー」

森田療法の「恐怖突入」を、認知行動療法では、「エクスポージャー」(曝露療法)と言います。恐れている状況に自分を曝(さら)すという意味です。

エクスポージャーとは

「エクスポージャー」とは、今この瞬間に自分の心や感覚をそのままに(マインドフル)、一瞬一瞬を精一杯体験しながら、価値判断をせずに感じとること、と認知行動療法では説明しています。

つまり、苦手な状況に自分を曝(さら)す体験することによって、感情に「とらわれた」思考プロセスを修正するカギであるということです。

具体的な技法

不安階層表を作成

「エクスポージャー」に際しては、「不安階層表」というものを作ります。いきなり不安や恐怖に直面するというのは抵抗が強いので、それを強いものから弱いものまで順に並べ、抵抗の少ないものから順に実行(曝露)していくのです。

曝露反応妨害法

「エクスポージャー」(曝露療法)の技法のひとつに、「曝露反応妨害法」というのがあります。

これは、恐れていることに積極的に自分を曝すというよりも、回避・逃避・安全確認といった行動をさせないように妨害する(反応妨害)ことを言います。それによって、結果的に恐れていることに「エクスポージャー」(曝露)させることになるからです。

例えば、何度も手を洗わないと気が済まない強迫障害の人は、手を洗うことによって一時的な安心を得ています。それを、洗う行動を妨害(洗わないようにする)することで、結果的に問題はないことを学ばせるのです。その人にとっては手を洗わないということは「不安・恐怖」そのものですが、それをさせないことによって、おのずと「エクスポージャー」(恐怖突入)になっているのです。

今この瞬間を感じる

苦痛のまま「今この瞬間」にとどまる

不安を感じる人たちの心は、過去を悔い、未来を心配する不快な感情によって占められています。常に主観の内に閉じ込められているのです。ですから、一番大事な「いま」を感じとることができません。つまり、ありのままの自分が感じ取れないのです。

だからこそ、恐怖突入において、その場で何が起きたとしても、「今この瞬間」「ありのままの自分」を感じ取ることが大切なことであるということです。

苦痛のまま「今この瞬間」にとどまることで、「ああ、自分が恐れていたことはこういうことだったのか」とか「今感じているこの自分を受け入れるしかないんだ」ということを体験する貴重な瞬間であるともいえます。

これは簡単なことではありませんが、森田でいう恐怖突入、認知行動療法で言う「エクスポージャー」はこうした深い意味があるということです。

理論と実践

森田でも認知行動療法でも、理論と実践、つまり、考え方を学ぶこと(心理教育)と、行動(恐怖突入・エクスポージャーなど)は車の両輪です。学び、体験してみる、その試行錯誤の繰り返しの上に理解は深まり、真実に近づきます。

行動実験として取り組む

認知行動療法では「エクスポージャー」を言わば「行動実験」として取り組むことを勧めています。つまり、これまで頭で考えていた「思い込み」と「実際に感じたこと」は違うということを身体で感じ取る「実験」であるということです。

そして、それが実験であるためには、ある程度の時間そこに留まることが必要です。つまり、「思い込み」と「体験した」事実の違いを身体で感じとるだけの時間そこにたたずむということです。そして、1回だけでなく、何回かその「実験」を繰り返すことによって、これまでの「思い込み」と「体験した」事実は違うということが次第に体得出来るというのです。

困難に直面する勇気

以上、述べてきたことは何も不安障害の人ばかりに当てはまることではありません。

もし、この先私たちが人生の途上で大きな困難に出会った時、今回お話した「恐怖突入」「エクスポージャー」は、その困難に直面することの意味と勇気を教えてくれるのではないでしょうか。

 

【参考】

T.A.サイズモア「セラピストのためのエクスポージャー療法ガイドブック」 (創元社2015)

 

 

 

 

 

 

 

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大学卒業後、放送局にて制作・報道などに従事。その後映像会社設立。
思春期より不安障害に悩む。自助グループで活動するかたわら心理学を学び、臨床心理士・公認心理師の資格取得。

名古屋市在住。2015年より長野県安曇野市で300坪の畑を借り都会と田舎の二拠点生活を始める。家族は妻・子ども3人・母。趣味は野菜づくり・読書・世界辺境旅行など。

 

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