《考え方・受けとり方》
同じことでも異なる
私たちは同じものを見たり聞いたりしても、人によって全く異なる考え方・受けとり方をよく経験します。
「あなたは落ち着いて見えますね」と言われて喜ぶ人もいれば、老けて見られて嫌だという人もいます。同じ仕事をしていても「ずいぶん出来た」と考える人と「まだこれだけしか出来ていない」と考える人ではその後のモチベーションも大きく違ってきます。
事実ではなく自分の「解釈」
つまり、私たちはある出来事をとらえて、それを事実であると思いがちですが、実はそれは自分の「解釈」によって理解された「事実」なのです。つまり考え方・受けとり方によって同じことでも「解釈」が大きく違ってしまうのです。
感情や行動を左右
そして、この「考え方・受けとり方」によって私たちの感情や行動はとても大きく左右されます。ポジティブに受け取れば、喜び・信頼・期待という快の感情が生まれ、前向きな行動が生まれます。ネガティブに受け取れば、不安・悲しみ・怒りという不快な感情が生まれ、マイナスの行動につながります。
ですから、そこを間違えて事実だと思い込みそれにとらわれると悩みや葛藤となって苦しむことになります。
考え方・受けとり方を変える
不安や不安障害はこの「考え方・受けとり方」(認知)に大きな原因があると言われています。
この「考え方・受けとり方」を柔軟にし、現実に適応したものにしようという心理療法が認知行動療法や森田療法です。しかし、その修正のアプローチがかなり異なります。
《考え方・受けとり方を変える~認知行動療法~》
認知行動療法では、例えば苦手の場面で、条件反射的に浮かんでくる認知(それを自動思考と呼ぶ)そのものに焦点を当てます。
例えば、「また失敗してしまうのでは」とか、「人に笑われるのでは」という思考です。認知行動療法ではそれを現実的で適応的な認知、「必ずしも失敗するとは限らない」「失敗しても職を失うわけではない」などの現実的な考えに修正しようというものです。
自動思考は考え方のクセから
「自動思考」は先に述べたように、これまでのその人の人生観や人間観に基づいて形成された考えの枠組み(スキーマ)に影響されています。
「何事も否定的に考える」「ものごとを白か黒かに分けたがる」「~すべきであると偏った信念を持つ」という「考え方のクセ」です。
私も認知行動療法を経験しましたが認知の修正がうまくいきませんでした。治療の焦点が認知に当てられているので、どうしても「考え方を変えなければ」「変えれば不安や恐怖がなくなるかも」ととらわれてしまうのです。
もちろん、その考え方そのものがスキーマに他ならないかもしれないのですが、治したい一心のクライエントにとっては、「とらわれ」や「はからい」が生まれやすい方法であることも確かです。そのため、私の場合はうまくいきませんでした。
ただ、この認知修正法でうまくいく人もいるでしょうから、これはあくまでも私の体験による感想でこれを否定するものではもちろんありません。
《考え方・受けとり方を変える~森田療法~》
一方、森田療法では不安や症状そのものを直接認知修正の対象としてあえて取り上げることはしません。
なぜなら、不安・恐怖といった感情は自然なものであり、それをコントロールすることは不可能であるという認識に基づいているからです。
「不安」と「生きたい」は表裏一体
そもそも森田療法では、不安・恐怖といったネガティブな感情は、「よりよく生きたい」というポジティブな感情と表裏一体を成していると考えます。「よりよく生きたい」という思いが強いからこそそれが「とらわれ」となってネガティブな感情が生まれてくるということです。
目の前のやれることからやってみる
そこで、森田では「よりよく生きたい」というポジティブな面に焦点を当てます。具体的には、ネガティブな感情はそのままにして、今できることは何かを考え行動することを促します。
目の前のやれることからやってみる。例えば家の片づけをする、買い物に行く、別に大げさなことでなくてもいいのです。生きるというのはそこからしか始まりません。
やれば小さな達成感があり、今度はもっと工夫したくなります。行動にはそうした弾みがあります。行動の積み重ねが成果を生み「よりよく生きる」ことにつながります。
一方でネガティブな感情ばかりに当たっていた焦点が知らないうちに行動に移っていきます。そうすることによって人は「とらわれ」から離れていくことが出来ると教えています。それが一つ目の認知修正です。
根本的な認識から修正
それだけではありません。森田では認知修正を、そのネガティブな感情を起こしている根本的な原因に対して行います。
それは現実を無視した観念的な考え方から生まれる誤った事実認識や不自然な生き方などです。それを日々の生活の中に探り当て、その考え方や生き方を修正することを目指します。
だから、たまたま生じた症状を何とかしようとするのではなく、それを生み出している人間の根本的な認識の間違いを治療しようとするものです。
認知修正に大きな違い
いわば、認知行動療法が、患部に治療の焦点を当てた西洋医学的な療法とすれば、森田療法は人間のその人全体を見ようとする東洋医学的な考え方といえます。同じ認知行動療法的といっても認知修正の扱いに大きな違いがあるのです。