認知行動療法からの視点
曝露療法(エクスポージャー)
先回、森田療法の「恐怖突入」のお話をしました。
認知行動療法にも、この「恐怖突入」に近い治療の考え方があります。曝露療法(エクスポージャー)と言います。
曝露法とは、不安や苦痛をもたらすものにあえて立ち向かうことで不安や苦痛を自然に減らしていく方法です。
暴露とは自分を曝(さら)すという意味です。
今この瞬間に自分の心や感覚をそのままに、一瞬一瞬を精一杯体験しながら価値判断をせずに感じとること、と認知行動療法では説明しています。
心理療法として単独で行われることもありますが、病院などでは薬物療法と併用して行われることも多いようです。
具体的な技法
不安階層表を作成
「曝露療法」に際しては、「不安階層表」というものを作ります。いきなり不安や恐怖に直面するというのは抵抗が強いので、それを強いものから弱いものまで順に並べ、抵抗の少ないものから順に実行(曝露)していくのです。
曝露反応妨害法
「曝露療法」の技法のひとつに、「曝露反応妨害法」というのがあります。
これは「曝露法」と「反応妨害法」を併用して行われる方法です。
患者が不安を抱いている状況やものごとに直面しつつ(暴露)、回避行動や安全確保行動・強迫行動をしないよう(反応妨害)するものです。
例えば、何度も手を洗わないと気が済まない強迫障害の人は、手を洗うことによって一時的な安心を得ています。それを、洗う行動を妨害(洗わないようにする)することで、結果的に問題はないことを学ばせるのです。その人にとっては手を洗わないということは「不安・恐怖」そのものですが、それをさせないことによって、おのずと曝露(恐怖突入)になっているのです。
今この瞬間を感じる
苦痛のまま「今この瞬間」にとどまる
不安を感じる人たちの心は、過去を悔い、未来を心配する不快な感情によって占められています。常に主観の内に閉じ込められているのです。ですから、一番大事な「いま」を感じとることができません。つまり、ありのままの自分が感じ取れないのです。
だからこそ、恐怖突入において、その場で何が起きたとしても、「今この瞬間」「ありのままの自分」を感じ取ることが大切なことであるということです。
苦痛のまま「今この瞬間」にとどまることで、「ああ、自分が恐れていたことはこういうことだったのか」とか「今感じているこの自分を受け入れるしかないんだ」ということを体験する貴重な瞬間であるともいえます。
これは簡単なことではありませんが、森田でいう恐怖突入、認知行動療法で言う「曝露療法」はこうした深い意味があるということです。
理論と実践
森田でも認知行動療法でも、理論と実践、つまり、考え方を学ぶこと(心理教育)と、行動(恐怖突入・曝露など)は車の両輪です。学び、体験してみる、その試行錯誤の繰り返しの上に理解は深まり、真実に近づきます。
行動実験として取り組む
認知行動療法では「曝露療法」を言わば「行動実験」として取り組むことを勧めています。つまり、これまで頭で考えていた「思い込み」と「実際に感じたこと」は違うということを身体で感じ取る「実験」であるということです。
そして、それが実験であるためには、ある程度の時間そこに留まることが必要です。つまり、「思い込み」と「体験した」事実の違いを身体で感じとるだけの時間そこにたたずむということです。そして、1回だけでなく、何回かその「実験」を繰り返すことによって、これまでの「思い込み」と「体験した」事実は違うということが次第に体得出来るというのです。
困難に直面する勇気
以上述べてきたように、「恐怖突入」とか「曝露療法」といっても、決してやみくもに恐怖に突進しろと言う乱暴な方法ではないということが分かって頂けたと思います。
この考え方は何も不安障害の人ばかりに当てはまることではありません。
もし、この先私たちが人生の途上で大きな困難に出会った時、今回お話した「恐怖突入」や「エクスポージャー」の考え方は、その困難に直面することの意味と勇気を教えてくれるのではないでしょうか。
【参考】
T.A.サイズモア「セラピストのためのエクスポージャー療法ガイドブック」 (創元社2015)