《感情は生きるために不可欠》
感情はもともと人間が生きていくために身につけたもので、環境に応じて素早く行動を決定するための生物学的適応であり、人間にとって不可欠なものです。
人が不安や恐怖といったネガティブな感情に反応しやすいのも、危険を回避する生きもの生存本能からすれば当然なのかもしれません。
快・不快をもたらす感情
感情は「うれしい、悲しい」など日常生活で感じるこころの自然反応であり、快・不快と大きく関係しています。
喜びや幸せ、安心、期待など快をもたらす感情もあれば、悲しみ、不安、恐怖、嫉妬、怒りなど不快な感情もあります。
特に不快をもたらす負の感情は、時には人を苦悩のどん底に突き落とすほどの厄介な存在です。私も悩みの渦中にいた時はそうしたメカニズムを知る由もなく、ただ翻弄されていたのです。
しかし、一方でこうした負の感情があるからこそ、正の感情が生き生きと感じられるのも確かです。苦しさや悲しさを耐えてつかんだ喜びは、何にも増して生き生きと輝きを放つことは私たちは体験的に知っています。
《感情の複合体=コンプレックス》
先回、感情は感情同士が混ざり合ってさまざまな複雑な感情を作り上げているというお話をしました。しかし、感情はそれだけではなく、思考・記憶・感覚・環境・イメージなどあらゆるものと複雑に絡み合っており、複合体(コンプレックス)を形成しています。
思考と感情
「あの人は私の悪口を言っている」と考えれば不安が生まれます。この場合は思考が不安を作り出したとみることもできます。あるいは、逆に不安な感情がマイナス思考を作り出したともいえます。いずれにしろ、感情と思考は密接に関係しています。
記憶と感情
記憶にも感情は絡みついています。思い出という記憶は感情と密接に絡み合っており、懐かしい気持ちにさせたり、つらく苦しい気持ちにさせたりします。
それは、脳の記憶をつかさどる「海馬」と、感情をつかさどる「偏桃体」が隣同士だということと関係があるのかも知れません。
そもそも感情は私たちが体験を通して学習し、無意識に蓄積された記憶といわれています。
例えば、虫に刺された子供はその危険性を無意識の記憶に焼き付け、その後、虫を見るだけで「恐い」「嫌い」という感情が生じるようになります。そして、それはさらに時間とともに思考・記憶・感覚・環境・イメージなどと絡み合って複合感情を形成していきます。
つまり、感情は人類の膨大な体験を通して学習され無意識に蓄積されてきた記憶の集積なのです。
感覚と感情
また、感情は感覚にも関係しています。視覚・聴覚・味覚・触覚・臭覚などと感情は複合的につながっており、豊かであたたかな音色、気持ちいい感触などの感情が生まれます。
さらに、荒涼とした寂しい景色、暖かで包まれるようなイメージなど、環境やイメージとも感情は結びついており、まさに万華鏡のような感情世界を作りあげているのです。
感情は行動に大きな影響
こうして作られた感情は何よりも私たちの行動に影響を与えます。それは、冒頭述べたように、感情は快・不快と大きく関係しているからです。
喜びが私たちの生きていく大きな原動力になったり、愛情が人を育て、好奇心が新たなものを創造します。
一方で、負の感情は人の行動にブレーキをかけます。もちろん、危険を回避するために働く場合はいいのですが、それが過剰な場合には、やるべきことも出来なくなり、そのためのせっかくの機会さえ避けるようになります。
感情というのはつくづく多彩で複雑なものだと思わざるを得ません。感情を知るということは自分のこころを知ることに他なりません。