こころのプラネット

間違った生き方や考え方が自分を苦しめていた・・・ 不安障害で苦しんだ当事者が出会ったこころの真実。森田療法を中心に、マインドフルネス・仏教心理学などを通して 苦しみの本質に気づき、とらわれのないこころのあり方さぐります。

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幸せのパラドックス

投稿日:2020年3月20日 更新日:

幸せのパラドックス

僕たちの探している青い鳥だ!僕達はずいぶん遠くまで探しに行ったけど、本当はここにいたんだ!”(「青い鳥」メーテルリンク)

人は常に幸せを求めます。人生は幸せを求める旅だと言ってもいいでしょう。
しかし、古くから「幸せは追い求めれば求めるほど逃げていく」という言葉があります。いわゆる「幸せのパラドックス」です。

先回、不安障害の話に関連して、「治そう」と思うと「治らない」という話をしました。このパラドックスは「幸せ」に関しても当てはまるのです。

アウシュビッツの過酷な体験を描いた著作「夜と霧」で知られる精神科医V.フランクルは、「幸せを追い求める人は、どこまで行ってもそれを手に入れることが出来ない」という幸福の逆説性について述べています。

それは「幸せを追求していくと、人は果てしない欲望ゲームの虜となって、絶えずむなしさや満たされなさを抱え込んで “永遠の欲求不満状態” に置かれてしまう」(諸富祥彦)からです。

幸せを手に入れたい

私たちは日々さまざまな情報によって欲望を刺激されています。あれが欲しいこれが欲しい。欲望に限りはありません。その欲望を満たすことはとりもなおさず「幸せ」を手に入れることと思い込まされています。お金、マイホーム、海外旅行、恋人、家族、地位、評価などなど。

これまではささやかな幸せで満足していたけれど、世の中には、もっと幸せな人が、ものが、人生がある。そう私たちを追い立てます。そのため、それを手に入れたいと人は「幸せ」を求めてやみません。

幸せさがし

しかし、それはきりがありません。幸せを得たと思った途端、さらに新たな幸せ探しが始まります。そうなると、幸せを求めれば求めるほど、逆に今、幸せではないということになってしまいます。それが「幸せのパラドックス」です。

幸せと満足

もちろん、幸せは百人百様であり、幸せをどこに求めようと他人があれこれ言うことではありません。ただ、問題は自分の思い描く幸せを手に入れられないで不満を募らせ苦しんだり、生きている毎日が幸せを手に入れるまでの単なる通過地点に過ぎない、ということであれば、本来の幸せのあり方としては本末転倒です。

それは本当の幸せなのだろうか。単なる満足ではないのかということです。

幸せはどこにあるのか

幸せの「青い鳥」

幸せは一体どこにあるのでしょうか。

メーテルリンクの「青い鳥」では、チルチル・ミチルの兄妹が、夢の中で幸せの象徴である青い鳥を探して過去や未来の旅に出ます。そして、さまざまな経験をした挙句、結局その青い鳥は自分たちの家の鳥かごの中にいたというお話です。

つまり、幸せはどこかに探し求めるものでなく、あなたのすぐ近くにあるのですよという寓話として伝えられています。

余談ですが、私たちが童話で知っている「青い鳥」の結末はふつうここまでです。
しかし、原作ではこの後、青い鳥は鳥かごから逃げて行ってしまいます。作者はこの結末によって、何を言おうとしているのでしょうか。幸せは手に入れたと思ってもすぐ失ってしまうものだと教えているのか、大切にしなさいと教えているのか。それとも別の意味があるのか。

いずれにしろ、「青い鳥」は子供向けとはいっても随所に象徴的な表現があり、なかなか一筋縄ではいかない深みがあります。
小説家の五木寛之氏はこの最後の場面について、『青い鳥のゆくえ』という著書の中でいろいろ考察を加えています。

また、これも余談ですが、この「青い鳥」には同じ作者による後日談ともいうべき続編があります。1918年に発表された「チルチルの青春」(原題「いいなずけ」)です。

青い鳥をさがす旅から7年後、16歳のチルチルが結婚相手を探す旅のお話です。「青い鳥」の後日談ということもあって、これもとても興味深い話ですので関心のある方は読んでみて下さい。

足もとの幸せ

話がかなりそれましたが、いづれにしろ「幸せ」というものが山の向こうにあるのではなく、私たちの身近にすでにあるということです。

“雲晴れて のちの光と思うなよ もとより空に 有明の月”

この古歌は、「雲が晴れなければ光がないと思うのは間違いですよ。もともと、月は雲がかかっていようといまいと初めから輝いていたのですから」という意味です。

月は仏を表しているという説もあります。しかし、この月を「幸せ」と見れば、「自分は幸せでない(光がない)と思っているのは間違いですよ。もともと幸せ(有明の月)はあなたの周りに輝いているのですから」という意味にもなります。

つまり、私たちは足もとの幸せになかなか気がつかないということです。これは私たちにも納得できるのではないでしょうか。

病気をして初めて分かる健康のありがたさ、失って初めて分かるその人の大切さ、災害に遭って初めて分かる日々の暮らしの大切さ。
人間は何かと比べないと、それが幸せなのか不幸なのか分からないのでしょうか。

私たちの足もとにある幸せ。それは、いまこうして生きていることの中にあるような気がします。

感謝の心が幸せへの近道

私たちは生きていることが当たり前と思っていますが、よく考えてみれば当たり前ではありません。様々な人やもののおかげで生きています。生かせていただいていると言ってもいいでしょう。

ありがたい

「ありがたい」というのは漢字で書けば「有難い」、つまり現在こうして有ることは難しい、簡単ではないということです。病気であれば、お金がなければ、助けてくれる人がいなければ、食べるものがなければ、住むところがなければ今の生活は得られません。まさに「ありがたい」と思わざるを得ません。

安心観に包まれた世界

感謝の心は「有難さ」に気づくことでもたらされます。
そして、その感謝の心こそ「幸せ」を運んでくれるキューピッドです。

感謝は、自分はいつもこうして支えられている、どこかで誰かが見守っていてくれる、という思いから生まれます。つまり、一人ぼっちではないという感覚です。それは安心感につながります。もう心配しなくてもいいのだという安心感です。

仏教では幸せのことを「無憂」といいます。心配がないということです。つまり、こうしてみてくると、本当の「幸せ」というのは、心配のない安心に包まれた世界と言えるのではないでしょうか。

もちろん、厳しい環境で生きている人がいるのも確かです。しかし、そういう人であっても、幸せは見つけることは出来るし、そのことによって自分が救われます。簡単ではありません。しかし、真の幸せは多分その方向にあるのだろうと直感するのです。

本当の幸せは周りの人をも幸せにする

その心境になれば、幸せは次々と湧き出てきます。あらゆることが幸せの種になります。そして、本当の幸せは周りの人を幸せにしないではおきません。

「鳥の歌うが如く、おのずから外に現れて他の人を幸福にするものが真の幸福である」(三木清)

私は過去に取材でこんな印象を受けた方にお会いしたことがあります。その方が本当に幸せだったのかもちろん確認するすべはありませんが、内面からにじみ出るものが、まさに「おのずから外に現れて他の人を幸福にする」ような印象を強く受けたのを覚えています。ですから、この三木清の言葉がリアリティを持って納得できるのです。

諸富祥彦「夜と霧 ビクトール・フランクルの言葉」
五木寛之『青い鳥のゆくえ』
三木清「人生論ノート」

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大学卒業後、放送局にて制作・報道などに従事。その後映像会社設立。
思春期より不安障害に悩む。自助グループで活動するかたわら心理学を学び、臨床心理士・公認心理師の資格取得。

名古屋市在住。2015年より長野県安曇野市で300坪の畑を借り都会と田舎の二拠点生活を始める。家族は妻・子ども3人・母。趣味は野菜づくり・読書・世界辺境旅行など。

 

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