アンガーマネージメントとは
感情と行動を遮断する
最近「アンガーマネージメント」という言葉をよく聞きます。この言葉は一見感情をコントロールする方法に法に聞こえるかもしれません。
「感情とは何か」(ちくま新書)で清水真木氏は、「例えば、“部下のミスに腹を立て怒鳴りつける”ことを思いとどまらせるようにすることを『アンガーマネージメント』というのならそれは感情のコントロールではなく、感情(怒り)と行動(怒鳴りつける)を遮断する操作にすぎない」と言っています。
つまり、腹が立った時には、時間や空間を置く(深呼吸する・その場を離れる)、あるいは立場を変えてみる(他人は自分の価値観とは違うことに気づく)という操作によって怒りとのつき合き方を変えているのです。
その上で清水氏は、「感情というものは外部からのコントロールを一切受けつけないものです」と指摘しています。
《感情の法則》
感情が自然反応というからには、その感情にも「自然の法則」が働いているに違いありません。そのことに気がつき、「感情の法則」というものを導き出したのが森田療法の創始者森田正馬です。
法則1:感情はそのまま放任すればやがて消失する
その法則の一つは、「感情はそのまま放任すれば、山形の曲線をなしひと昇りしてついには消失する」というものです。
つまり、不安・嫉妬・怒りといった負の感情であっても、それを無くそうとしたり抑えようとしたり “やりくり”(コントロール)しないでそのままにしておけば、時間とともに静まり消えていくということです。
これは私たちも日常経験することです。例えば、心配ごとで頭がいっぱいの時、たまたまやらなければいけない用事があってそれに没頭していたら、先ほどの心配が消えていた、という例です。
これは、心配という感情を「そのままにしておく」という点がきわめて重要です。とりあえず心配事はそのままにして、やらなければいけない用事の方に気持ちを向けるということです。ただ、心配が消えることを “期待”してやってはうまくいきません。それは心配という感情が頭の中から消えていない証拠だからです。
法則2:感情は注意を集中すると強くなる
もう一つは、「感情はその刺激が継続して起こる時と、注意を集中する時に強くなる」というものです。つまり、感情を抑え込んだり、コントロールしようとすると逆に増大してしまうということです。これは私たちの日常でよく経験します。
感情の「精神交互作用」
そのメカニズムは、不安な感情をコントロールしようとすると、そこに注意が集中し感覚がより鋭敏になり、ますます負の感情が増大していくということです。
いわゆる悪循環ということで、森田療法では「精神交互作用」と言っています。感情をコントロールしようとすることは、「自然の法則」に反している行為ということになります。
私も森田を学び始めてけっこう長い間、不安や恐怖を無くすことばかりに頭がいって、感情を「そのままにしておく」ということがよく分かりませんでした。どうしても、「不安や恐怖が静まり消えてゆく」という結果を期待してしまい、自分の感情の行方ばかりに注意がいってしまうのです。
そもそも「感情は自然な現象でコントロールできないものである」という前提が、頭だけでなく肚に落ちない限り、この感情の法則は正しく理解されないのです。
ですから、この「感情の法則」は結果論であり、これをめざして感情をコントロールしようとするのは間違いなのだということが分かってきたのです。