デフォルト・モード・ネットワーク
ぼんやりしている時に活性化
最近、「デフォルト・モード・ネットワーク」という言葉が盛んに言われるようになりました。
最新の脳科学の研究によると、人間の脳は、勉強や仕事など意識的に何かに取り組んでいる時に比べて、むしろぼんやりしている時(アイドリング状態)の方が、脳の広い領域にわたって、より活性化している状態であることが分かってきています。
これが「デフォルト・モード・ネットワーク」という脳のネットワークの働きによるものです。この状態の脳は、意識的な活動している時に比較して20倍ほど活発であると言われています。
新しいネットワークの結びつき
ふだん私たちが仕事や勉強のような自ら意識的に活動をしているような場面では、脳を効率的に使うため、脳の限られた領域のみが活発に活動し、それ以外の領域は休んでいると言われています。ですから、神経ネットワークの新しい結びつきは起きにくいと考えられます。
しかし、ぼんやりしている時、つまり「デフォルト・モード・ネットワーク」の状態では、ネットワークの結びつきの変更が活発に行われます。
ふだんはつながることのない領域も活性化して、新しいつながりや組み合わせが出来やすくなっています。
記憶の断片をつなぐ
例えば、あちこちに散らばる記憶の断片も思いもよらないつながりによって、新しいものの見方・考え方が生まれやすくなります。
つまり、「気づき」「ひらめき」「洞察」が得られる可能性が高くなるというわけです。
マインドフルネス
評価や判断を加えない
そのことと関連して、最近こころの分野で大きな関心を集めているのが「マインドフルネス」です。
ものごとをあるがままに観察する仏教の洞察瞑想法の影響を受け、1960年代以降のアメリカで広まったものです。心理療法だけでなく、心身の健康や良好な人間関係、創造力や集中力を増す効果があるとして注目を集めています。
マインドフルネスは、瞑想という非日常の空間を使って「今ここでの経験に、評価や判断を加えることなく注意を向けること」と説明しています。
ぼんやりと注意を向ける
例えば、マインドフルネス瞑想を始めると、まずさまざまな刺激が気になります。例えば次々と湧き出る雑念(内部からの刺激)や周囲の音(外部からの刺激)などです。
それに対して、評価や判断を加えないで注意を向け観察する。
つまり、雑念が起きたら「ああ、自分は今こんなことを考えているんだなあ」とぼんやりと注意を向け、鳥の声が聞こえればその声にぼんやりと注意を向ける。次々と生まれてくる内や外からの刺激に対してぼんやりと注意を向け観察し、そのまま流していく。
この状態が脳科学的に分析すると、前述の「デフォルト・モード・ネットワーク」が働いている状態だと考えられています。
気づきや洞察を手に入れる
このように、「マインドフルネス瞑想法」によって、ふだんは解釈・評価・感情で曇っている感性が研ぎ澄まされ、新しい気づきや洞察を手に入れることが出来るようになると言われています。
気づきとは突然「ああそうか!」と腑に落ちる体験です。つまり、それは新しい事実の発見ということであり、「ひらめき」ときわめて近い体験です。
とらわれや思い込みで悩みや生きにくさを感じている人たちにとって、「デフォルト・モード・ネットワーク」の発見が、新しい「気づき」をもたらしてくれる一つのきっかけになってくれるかもしれません。
「デフォルト・モード・ネットワーク」が働く
こう見てくると、先回取り上げたふと浮かぶ記憶や思考である「マインドワンダリング」にも、「デフォルト・モード・ネットワーク」が働いていることが分かります。
思い出そう・考えようとしなくても、過去や未来に関する情報がふと意識に上ることで、私たちは目の前の状況だけに縛られないで情報を得ることが出来る。つまり、「気づき」が得られるということです。
意識化されない部分が重要
瞑想という言わば非日常の状況で行う「マインドフルネス」と、日常頻繁に生じる「マインドワンダリング」が、「デフォルト・モード・ネットワーク」( “ぼんやり ”という非意識的な状態で起きる現象)を通じて共通しているということはとても興味深く思われます。
氷山の90%は水面下にあると言いますが、人間のこころも意識化されない隠れた部分が大きな影響を与えているのだと改めて感じないでおられません。
【参考】
「マインドフルネスストレス低減法」ジョン・カバット・ジン著(北大路書房)