こころのプラネット

間違った生き方や考え方が自分を苦しめていた・・・ 不安障害で苦しんだ当事者が出会ったこころの真実。森田療法を中心に、マインドフルネス・仏教心理学などを通して 苦しみの本質に気づき、とらわれのないこころのあり方さぐります。

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ふと浮かんでくるネガティブな思い

投稿日:2021年2月6日 更新日:

思い出したくない、考えたくないのに心に浮かぶ

ふと浮かんでくるネガティブな記憶・思い

前回、「マインドワンダリング」の話をしました。思い出そう・考えようとしなくてもふと浮かんできてしまう記憶や思考のことです。

こうして浮かんでくる記憶や思考は必ずしもポジティブなものと限りません。

そもそも、記憶や思考には必ず「感情」が絡みついています。嫌な記憶、マイナスの思考など、それぞれが感情と複合体となって浮かんでくるからです。

「マインドワンダリング」が生じやすいのは、馴れた仕事、関心が持てない活動などに加えて、不安を感じている時などに多いと言われています。

ですから、不安や抑うつ傾向のある人は、ネガティブなことをついつい思い浮かべてしまう傾向があるのです。何よりも、それが自分にとって一番の関心事だからです。

そもそも、マインドワンダリングは一日のうち、約30~50%もの時間を占めていると言われていますから、多くの時間をこうしたマイナス思考、不快な感情で占められていることになるわけです。

私も不安障害に苦しんでいた時は、多くの時間をネガティブな気分で過ごしていました。頭の上を常に灰色の雲で覆いつくされているようで、いつになったら青空が望めるのだろうと不安な気持ちでいたことを思い出します。

「考えない」ようにすると「考えて」しまう

シロクマ実験

次々と浮かんでくるマイナス思考、不快な感情に翻弄されていると、当然ですがそれを取り除きたいという思いが強くなります。そのため、ネガティブな感情や思考の抑制(考えないようにする)を繰り返すことになります。

しかし、思考を抑制するのは簡単なことではありません。

社会心理学者のWegner(1987)は、思考抑制の実験を行いました。実験参加者に「5分間シロクマについて考えないで下さい」と伝えたところ、その結果は抑制できたどころか、多くの参加者が1分に1回はシロクマのことが頭に浮かんだと報告したそうです。

さらにその後、思考抑制から解放された後にも、シロクマのことがなかなか頭を離れなかったという報告もされています。

参加者にとって、シロクマは特別な感情を伴わない対象であったにもかかわらずこうした結果が得られたということは、個人的な体験や感情的な対象を抑制しようとすることはとても難しいことが分かります。

なぜ、ジレンマが起きるのか?

2つの心理機能

なぜ「考えない」ようにしているのに「考えて」しまうという皮肉なことが起きるのでしょう。

Wegner(1944)の説明によると、「考えない」ようにと思考を抑制すると、「監視」と「実行」の2つの心理機能が働くと言います。

「監視」機能は「考えない」ようにと思考の侵入を監視します。一方で、「実行」機能は自分が行おうとすること(仕事や読書など)に意識を集中させようとします。

逆に注意が向いてしまう

しかし、皮肉なことに「考えない」ように監視していると、逆にその思考に対して注意が向いてしまうことになり、過敏な状態となります。一方、肝心の「実行」機能はお留守になってしまいます。

その結果、まさに「考えない」ようにと抑制していた思考が心に浮かびやすくなってしまい、「考えない」ようにすればするほど「考えて」しまう悪循環に陥ってしまうことになります。

別の思考に代える

認知行動療法の考え方

それでは、このジレンマをどう乗り越えればいいのでしょうか。

一つは「考えない」ようにするのではなく、代わりとなる別のことを考えることです。

認知行動療法では、自分の偏った考え方を適応的な考え方に修正することによって、ネガティブな思考を改善しようとします。

例えば、「失敗してしまうのでは」という考えが浮かんでくる時は、「誰でも失敗はある」「これまで上手くいったこともある」「一つの失敗で全てが否定されるわけではない」「きちんしたと準備をすればよい」など、自分の考え方を現実的なものに置きかえていくことです。それによって、思考抑制の悪循環を無くそうというわけです。

ここでのポイントは、むりやりポジティブ思考に置きかえようというのではないということです。現実的で、かつ自分が十分納得できる考え方であることが重要です。

森田療法の考え方

森田療法の考え方はこれとは少し違います。

森田療法では、そもそも「ふと浮かんでくる」その記憶や思考(森田が主に対象としているのは不安)は自然なものであるから、それを抑制しようとか、修正しようとはしません。つまり、そこに焦点を当てないということです。

なぜなら、不安な気持ちそのものに焦点を当てている限り、どうしてもそれにとらわれてしまうからです。それは前述の「考えない」ようにすればするほど「考えて」しまう、という心の仕組みを考えると納得できるのではないでしょうか。

そして、その不安の裏側にある「生の欲望」(より良く生きたい)の方に焦点を当てていきます。なぜなら、より良く生きたいからこそ不安が生まれるわけですから、むしろそちらに焦点を当てていくのです。

このように、一見無関係と思われる(実は深い関係がある)ポジティブな思考に焦点を切り替えることによって、とらわれの悪循環から免れているのです。

【参考】
「ふと浮かぶ記憶と思考の心理学」~無意図的な心的活動の基礎と臨床~関口貴裕・森田泰介・雨宮有里著
(北大路書房)

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プロフィール

石井 勝
大学卒業後、放送局にて制作・報道などに
従事。その後独立。
思春期より不安障害に悩む。自助グループ
で活動するかたわら心理学を学び
臨床心理士・公認心理師の資格取得。
名古屋市在住。2015年より北アルプスの麓
長野県安曇野市で300坪の畑を借り
都会と田舎の二拠点生活を始める。
家族は妻・子ども3人・母。
趣味は野菜づくり・読書・世界辺境旅行等

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