悩みが孤立感を深める
誰に相談するか
人生の途上にはさまざまな問題が起こります。その都度、私たちは悩み、葛藤し、この困った事態をどうしたら解決できるのかいろいろ模索します。しかし、簡単には答えが出そうもありません。
自分一人では背負いきれない悩みを抱えた時、あなたは誰に相談しますか。
ふつう、まずは身近な家族、先生、友人などが頭に浮かぶでしょう。しかし、身近な人と言っても、悩みを打ち明けるほど良い関係が保たれているかどうかにもよりますし、逆に身近な人には弱みを見せたくない、相談しにくいという一面もあります。
孤立感を深める
悩みといっても、病気やトラブルなど悩みの対象が具体的である場合には、まずはその道の専門家(医者や弁護士など)に相談することで解決することもあるでしょう。しかし、往々にして私たちはその悩みにとらわれてしまい、悩みをさらに深めることになります。そんな時、私たちはネガティブな感情のうちに閉じ込められてしまい、周りが見えなくなってしまいます。
「この苦しさは他人には分かってもらえない」「こんなことで悩んでいるのは自分だけだ」「相談したところで相手が困惑するだけ」「励ましの言葉も苦痛でしかない」。
このように、悩みの渦中にある人は何よりも孤立感を深めています。そして、それによってさらに悩みを深めているのです。何よりも、その孤立感を解きほぐし、親身に悩みを聞いてもらえる「居場所」が求められています。
自助グループという選択
多彩な自助グループ
そんな時、考えられる選択肢の一つが自助グループ(セルフヘルプ・グループ)です。自助グループとは、何らかの困難や問題、障害など同じような悩みを抱えた人同士が集まり、お互いに悩みや気持ち、経験、情報を分かち合い、支え合う中から問題の解決を見出すための活動です。
時には専門家を招いて話を聞くこともありますが、基本的には当事者による当事者のための集りというのがその基本です。
病気(がん・難病など)、障害(身体・発達など)、依存(アルコール・薬物など)、家族問題(いじめ・虐待など)、犯罪被害、マイノリティなど実にさまざまな分野の自助グループが存在し活動しています。
私も現在不安障害の自助グループに参加しています。このグループは、パニック障害、強迫性障害、対人恐怖など、不安を中心とした心の問題を抱えた人たちの集まりで、悩みを話し合うとともに、その治療法である森田療法の思想を共に学んでいます。
自助グループの役割
安全で安心な居場所の提供
自助グループにおける援助機能のうち、どこのグループにも共通し、なおかつ大切な役割の一つは、さまざまな問題や障害で苦しんでいる人たちに、安全で安心な「居場所」を提供することです。
悩みをきちんと聞いてくれる。他人の痛みは自分の痛みと共感してくれる。自分を一人の人間として受け入れてくれる。それはおかしいことではないと認めてくれる。そんな空間を提供してくれる場と言っていいでしょう。
つまり、悩みを持つ人たちを孤独感から解放し、安心感で満たし、居場所と役割を提供してくれるということです。
自助グループを調査研究
ところで、私は自助グループに入ったことがきっかけで、大学院に社会人入学し心理学を学びました。その修士論文で取り上げた対象が自助グループでした。現在私が活動している不安障害者のグループです。
テーマは「自助グループに参加して自己受容はどう変化したか」についてです。自助グループに入ってメンバーの心にどんな変化があり、自分をどう受け入れることができるようになったかを探ろうというものです。
自己受容度が増大
研究の詳細は省きますが、メンバー108人に対して行ったアンケート調査の結果では、自己受容度が平均38.6%向上していることが分かりました。
自己受容度が100%増えた人も1割ほどいます。そのうち8割以上がその理由に「自助グループ活動の成果」と回答しています。
救われた・受け容れられた
また、その際行ったインタビューでは「自助グループがあることですごく救われた」「自分の居場所を見つけられた」「こんな自分でもいいんだと思えた」「受け止めてもらえたという感じは100%あった」などの言葉で、多くの人が「受け容れられた」喜びを率直に表現しています。
こうしたインタビューやアンケート結果からも分かるように、自助グループは「他者からの受容」に包まれた環境であり、自己受容の向上にも影響を及ぼしていることが分かります。