《「承認欲求」を克服するには》
これまで3回にわたって、「承認欲求」について述べてきました。
“自分を認めて欲しい” “周囲から評価されたい” という「承認欲求」は健全に働いている限り私たちが向上発展するための大きな原動力です。
しかし、いま、社会問題となっているのは、そのことによって人の心にさまざまなひずみが出てきているからと言えます。
それではそれを克服するためにどうしたらいいでしょうか。
アドラーの「課題の分離」
先に紹介したA.アドラーは「他者の承認を求める必要はない」とはっきり否定しています。
アドラー心理学の根幹をなすキーワードの一つは「課題の分離」という概念です。自分の課題(自分が自分で責任を持つべきこと)と他者の課題(他者が自分で責任を持つべきこと)をきちんと分離して考えることが対人関係の悩みを解決するのに大切であるという考え方です。
なぜなら、私たちは他者の期待を満たすために生きているわけではありません。自分が選択したことに対して他者が自分にどんな評価を下そうと、それは他者の課題(他者が自分で責任を持つべきこと)であって、その結末を他人がどうしてくれるわけでもありません。最終的に引き受けるのはこの自分です。自分を変えることが出来るのは自分しかいません。それには自分の課題(自分が自分で責任を持つべきこと)をやりとげること、つまり「自分の信じる最善の道を選ぶこと」それだけである、と述べています。要は他者からの「承認」をあてにするのではなく、自分で自分を「承認」して行動することが大事であるということです。
自分で自分を「承認」する
アドラーの考え方
それでは、自分で自分を「評価する・承認する」とはどんなことでしょうか。
アドラーは「どんな能力をもって生まれたかは大した問題ではない。重要なのは与えられた能力をどう使うかである」と言っています。私たちは自分という容れ物を捨てることも交換することも出来ません。今ある自分をどう使っていくかが重要だというのです。
そのためには自分自身をそのまま認めることです。つまり「自己受容」です。無理に自分を肯定する必要はありません。出来ないことがあればその出来ない自分をありのままに受け容れて出来るように努力をしていくことです。
自分自身のあるがままの価値を受け入れ、自分の信じる最善の道を選び行動していくことが「他者による承認」の自縛から抜け出る道であると言っています。
森田療法の考え方
森田療法の考え方では、この「承認欲求」をどう理解したらいいでしょうか。
「周りの人の評価」は場合によって自分では気がつかない見方や評価があるかもしれません。しかし、他人の評価基準は人により、状況によって大きく変化します。また、それを受け取る側の解釈も、こうあって欲しいという自らの願望や価値観、感情が色濃く反映されています。つまり、そうしたさまざまな要素によって変わる「評価」はものごとの真実を伝えていません。
森田では「事実唯真」という言葉がよく使われます。その意味は “事実こそが本当の真実である” ということです。ですから、ものごとを判断するにあたっての基準は、それが「事実である」か「事実でない」かということになります。
それでは、何が事実なのでしょうか。それは、人間には「よりよく生きたい」という欲求が存在する” ということです。
私たちは自分自身を「あるがまま」にみつめた時、人によってさまざまな悩みや葛藤はあったとしても、胸の奥には「よりよく生きたい」という切なる願いが存在していることを認めざるを得ません。だからこそ生きていますし、だからこそ悩むのです。
森田では、その誰にでもある人間本来の欲求を大事にし、それを実現するために自らの判断で行動していくことが「生きる」ことであると言っています。決して「他者による承認」をあてにするということではありません。それが自分で自分を「評価する・承認する」ということにつながるということです。
【参考】「嫌われる勇気」岸見一郎・古賀史健(ダイヤモンド社)