《マインドフルネスと認知行動療法》
先回、「マインドフルネス」という心のあり方が世界の精神医療の新しいトレンドになっているという話をしました。
近年、このマインドフルネスを認知行動療法に取り入れようという動きが活発になっています。
第三世代の認知行動療法
これまでの認知行動療法は思考(認知)を対象化しそれを操作(認知修正)しようとするものでした。
しかし、うつ病がなかなか改善しない人や再発する人などに対しては課題も指摘されてきました。そこで、マインドフルネスを導入する動きが加速することになったわけです。
いま、認知行動療法の新しい流れである第三世代の認知行動療法(マインドフルネス認知療法・弁証法的認知行動療法・アクセプタンス&コミットメントセラピーACTなど)では、いずれもマインドフルネスを重視しています。
《マインドフルネスと森田療法》
100年以上も前からマインドフルネス
先にも言いましたように、マインドフルネスは仏教という東洋の叡智から生まれたものですから、私たち日本人にはなじみのあるものです。
このマインドフルネスの考え方は森田療法でもすでに100年以上も前から取り入れられていました。森田療法の中心的な考え方である「あるがまま」がそれです。
森田では不安という感情をあえて取り上げることをしないでそのままにしておく心の態度を養います。それはまさに「今この瞬間の体験に気づきそれをありのままに受け入れる心の持ち方」であるマインドフルネスと相通じるものがあります。
心理療法の最前線・森田療法
中でも、アクセプタンス&コミットメント・セラピー(ACT)は、きわめて森田療法に似ています。ACTはマインドフルネスやアクセプタンスによる気づきや、あるがままの受容を、そしてコミットメントでは価値ある目標に向けて行動することを促しています。
これは森田療法の言う「あるがままになすべきことを成す」と目指すところがきわめて近いと言えます
しかし、創始者であるヘイズは、東洋思想からの影響については述べているものの、森田療法については全く言及していません。
そのため、当時の国際認知療法協会のリーヒ会長が、「ACTの考えや技法の多くはそれと断らずに森田療法から直接取り入れたものである」(2008)との批判を投げかけました。
また、その後ボストン大学のホフマンが論文(2008)の中で「それは新しい波と言えるのか(New Wave or Morita Therapy ?)」とし「すでに80 年前に日本の森田療法が主張してきたものと同じである」と述べACTと森田療法の著しい類似性に言及しています。
(これは元東京慈恵会医科大学森田療法センター長中村敬先生の論文をメモしたものです。出展論文をさがしたのですが、現在辿れなくなっていますので判明次第掲載させていただきます)
しかし、ここではどちらが優れているかということを言うために取り上げたわけでは決してありません。
ただ、100年以上も前に日本で生まれた森田療法が、いま世界の心理療法の最前線で取り上げられその独創性を評価されていること一つをとっても、いかに完成度の高い優れた療法であるのかを感じざるを得ません。
精神療法と宗教の出会い
人間をトータルにとらえる
ただ、マインドフルネスが話題になることによって、仏教や森田療法に関心が高まることはとてもいいことだと思います。
私は現代の心理学や精神療法が科学的であることを重視するあまり、人間をトータルにとらえる視点が希薄化していることをとても不満に感じています。欧米の人たちがマインドフルネスに興味を持ったのもその点を敏感に感じ取ったのではないでしょうか。
精神療法と宗教の出会い
森田療法研究所所長の北西憲二氏も東京大学の講演の中で、マインドフルネスが現代人に受け入れられた意味について「宗教と精神療法、精神医学、心理学がもう一度きちんと出会い、向かい合っていく」契機になるのではと新たな展開の期待を述べています。
精神療法も宗教も共に人間の苦悩をどう救うか、人間らしい生き方は何かを求めていくことがテーマです。これまでは相容れない関係にあったかに思える両者ですが、これからは共に向かい合い、補いあえる関係になれたらと思わざるを得ません。
【参考】東京大学講演記録「マインドフルネス、あるがまま、そして森田療法」(北西憲二:2015)