こころのプラネット

間違った生き方や考え方が自分を苦しめていた・・・ 不安障害で苦しんだ当事者が出会ったこころの真実。森田療法を中心に、マインドフルネス・仏教心理学などを通して 苦しみの本質に気づき、とらわれのないこころのあり方さぐります。

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不安とのつき合い方(1)

投稿日:2020年1月29日 更新日:

不安スペクトラム

最近、「スペクトラム」という言葉をよく聞きます。科学や医療などさまざまな分野で使われる言葉で「連続体」と言う意味です。

「自閉症スペクトラム」と言えば、対人関係や強いこだわりなどに問題がある特性をひとまとめにする考え方を言い、典型的な自閉症から、知的障害のないアスペルガー症候群、さらにはもっと軽い状態までを指します。

この考え方にならって、「不安」で悩む人たちを連続体として捉えるとどうでしょうか。

不安は人が日常で感じる最も一般的な負の感情です。多くの人が日常さまざまな不安を抱えて生きています。子どもの教育、親の介護、人間関係、生活の不安、自分の将来など数え上げたらきりがありません。
さらには、その不安で日常生活が阻害されている人たちもいます。不安障害、うつ病、ひきこもり、摂食障害、依存症の人などです。

仮にこれらに「不安スペクトラム」と名付けたとすると、現代のこころの問題の多くがここに含まれると思われます

できること・できないこと

不安とは、私たちを脅かすような出来事や危険が迫ってくると漠然と感じ、自分ではそれをコントロールできないと感じる時生ずるものです。

それは生命、生活、人間関係、社会的評価などあらゆる局面で生じます。

この不安を伴う似た感情に恐怖があります。恐怖は不安のより具体的な感情と言われています。

この不安・恐怖という漠然とした感情について、これまで私たちはきちんと知ろうとしてきませんでした。ですからその対処方法もどうしても場当たり的になってしまいます。

こうした感情とつき合うには、まずその感情がどういうものなのかを知らなければなりません。そのためには、心をさぐり、なぜ起きるかを知り、その意味を理解することが必要です。そして、その上で行動に結びつけていくことが求められます。

その場合、陥りやすい間違いとして、自分や自分を取り巻く環境を私たちは自分の思い通りにコントロールできるとついつい思い込みがちなことです。

つまり、私たちにはコントロール「できること」と「できないこと」があると知ること、それがとても大事になってきます。

不安は、私たちを脅かすような出来事や危険に対し、自分ではそれをコントロールできないと感じる時生ずるものだからです。

その上で、「できること」は行い、「できないこと」ことはあきらめる、それがまず、感情とつき合う第一歩となります。

《私たちにできないこと》

それではまず、わたしたちが「できないこと」を考えてみましょう。

1.現実を思い通りにすること

私たちに出来ないことの一つは「現実を思い通りにする」ことです。

当たり前ですが、現実は私たちが思い描く理想とは違います。さまざまな人がいて、さまざまな状況で動いているのが現実です。自分の思うようになるわけがありません。

「できないこと」を「できること」と思ってしまうのは、自分の中に「こうありたい」「こうでなければ」という強い願望や価値観があるからです。ものごとを客観的に見ることが出来ないということです。そのため、自分の思い描くことと現実との間にギャップが生じ、悩みや葛藤が起きるのです。

もちろん、現実に対して何もできないというわけではありません。
「現実に働きかける」ことはできます。しかし、だからといってその結果が自分の思ったようになるとは限りません。

この事実を受け入れるにはどうしたらいいのでしょうか。

それはやるべきことを一生懸命やるしかありません。スポーツ選手が試合後「やるだけのことはやった。負けても悔いはありません」とコメントすることがあります。これは精一杯努力した人にして初めて言える言葉です。

私たちも、その心境になるためには自分で出来ることを一生懸命やるしかないということになります。そうすれば結果にとわられずまた頑張る力が湧いてきます。

2.他者の考えを思い通りにすること

周りの人たちの考えや感情を自分の思い通りにすることもできません。しかし、私たちは無意識のうちにこれを求めています。いわゆる「承認欲求」もこの一つです。自分を認めて欲しい、評価して欲しいといくら思ってもこれは相手があることで思うようにはなりません。相手は相手の考え方や感情があるのです。

もちろん、他者に働きかけることはできます。しかし、その結果、自分を認めてくれるようになるかどうかは相手次第です。ですから、見返りを求めると自分が苦しくなります。
出来ることは見返りを求めないで、努力、誠意を尽くすだけということになります。

つまり、私たちは「他者による承認」をあてにすることなく、自分で自分を「評価・承認」し、自ら最善の道を選び行動していくことしかありません。

3.感情をコントロールすること

今、私たちの周りには「感情をコントロール」するにはという類の自己啓発本やコーチングなどの情報が沢山出回っています。
私たちはついつい感情はコントロールできると思い込んでしまいがちですが、本当にコントロールすることが出来るのでしょうか。

例えば、苦手な場面で恐怖の感情に駆られると心臓はドキドキし血圧は上がります。頭では冷静にと思っても、体では反応がもうすでに起こってしまっているのです。
感情は人間にとって自らの身を守るための自然な心の働きだからです。

それを証明するのが “感情は自律神経と密接な関係にある” という事実です。自律神経は内臓、血管などの働きをコントロールしている神経で、私たちの意思で自由に動かすことは出来ません。

苦手な場面では、不安や恐怖の感情が生じ、自律神経(交感神経)の働きが活発になり、自分の意思と関係なく心臓がドキドキし、横隔膜がせり上がり、丹田に力がなくなり、呼吸は浅くなり、頭に血が上り、手足の力が抜け、口はかわき、舌はひきつれ、体が震えてきます。

それをコントロールすることは出来ません。ですから、その自律神経と深い関係にある感情も人間の思う通りにコントロール出来ないということになります。

《「できないこと」はあきらめる》

冒頭に、私たちには自分でコントロール「できること」と「できないこと」があるというお話をしました。

私たちが抱えている心の葛藤の多くが、その「できないこと」を「できる」と思い込んでやろうとしていることに起因しているのではないでしょうか。

「できないこと」ことをやろうとしても決して思うようにはいきません。分かりやすく言えば、「馬を水辺に取れていくことはできるが、水を飲ませることはできない」ということです。

心理学者のアドラーは「課題の分離」という言葉でこのあたりにことを論じています。ですから、今回の結論は

「できないこと」はあきらめる
やっても無駄だから断念する。

それがまず、感情とつき合う第一歩となります。

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プロフィール

プロフィール

石井 勝
大学卒業後、放送局にて制作・報道などに
従事。その後独立。
思春期より不安障害に悩む。自助グループ
で活動するかたわら心理学を学び
臨床心理士・公認心理師の資格取得。
名古屋市在住。2015年より北アルプスの麓
長野県安曇野市で300坪の畑を借り
都会と田舎の二拠点生活を始める。
家族は妻・子ども3人。
趣味は野菜づくり・読書・世界辺境旅行等

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