《不安とどうつき合うか》
できること・できないこと
私たちの心を脅かす不安。
その不安という感情が生じる原因には、もちろん客観的に脅威が存在し、いわば避けがたいものもありますが、多くは自分自身の心が生み出すものです。
先回は、私たちや私たちを取り巻く環境には、私たち自身がコントロール「できること・できないこと」があるということ。そして、「できること」は行い、「できないこと」ことはあきらめることが感情とつき合う第一歩となることをお話しました。
《私たちにできること》
今回は、私たちに「できること」は何かを考えていきましょう。
まずは不安という感情を知るということです。どんな時、どんな不安が生じるのか、そして、不安とは何か、なぜ不安が起きるのか、どんな性質があるのかなどを知ることがとても大事です。
つまり、不安という感情を正しく理解し、その上で不安とどうつき合っていくか、一緒に考えてみましょう。
《どんな時・どんな不安が生じるのか》
不安を「見える化」する
私たちが感じる不安とは具体的にどんなものなのでしょうか。それを知るための方法の一つは頭に浮かんでくる考えや感情を文字にしてみることです。漠然とした感情をいわば「見える化」するのです。そのことによって不安を対象化することが出来ます。つまり、これまであいまいだった感情が具体的に理解できるようになります。
日記・記録をつける
- 日記をつける
日記は日々の出来事や心の動きなどを記録するものです。生活の中で不安を感じた時には、その時浮かんだ思考や感情なども書きます。日記は書き手が読み手ですので、感じたままに書けばいいのです。場合によっては不安など感情の強度を%で表わす方法もあります。そうすることによって、日々の変化が分かります。日記を継続することで、どんな時にどんな感情が起きるのかパターンが見えてきます。また、後日読み返すことで、時間の経過による心の変化を感じ取ることも出来ます。このように、日々自分のこころと向き合うことによって、誤った自分の生き方や考え方に気づきを与えてくれます。つまり、自然治癒力が働く効果があるということです。森田療法には日記療法と言うものがあります。毎日日記をつけ、それを医師や指導者などに見てもらい、コメントを返してもらうものです。私が活動する自助グループでも学習会の際、初心者に対してこの日記法を取り入れています。 - 思考記録表をつける
認知行動療法では「思考記録表」というものがあります。
これは日記とは異なり、不安を感じた時の状況、どんな思考や感情が生じたか、もっと他の考え方があるかなどを自分で記入していくものです。1.状況(つらい出来事が起きたのはどんな状況?)
2.その時の気分は?
3.その時条件反射的に浮かんだ考えは?(自動思考「また失敗したらどうしよう!」)
4.自動思考の根拠(例:以前にも失敗したので)
5.反証(自動思考の間違っている点は?)
6.バランス思考(客観的に見てバランスが取れていると思う考え方は何?)
7.心の変化(ここまで書いてきて心に変化はあったか?)これらは自分自身で記入し自分自身で気づくための、セルフヘルプ的な方法として活用するようにできています。
《不安を理解する》
私たちを苦しめる不安はなぜ起きるのでしょうか。そして、そこにどんな意味があるのでしょうか。
不安は自然な心の働き
これまでは、不安は悩みや症状を引き起こすもの、だから取り除くべき敵であると考えていました。
しかし、前回の「不安とのつき合い方(1)」で見てきたように、不安な感情も自然な心の働きであってみれば、それが あっても不思議ではない、考え方によってはむしろあるのが当たり前 ということになります。
逆に、不安は私たちが無理な生き方や考え方をしていることを教えてくれる味方だとも理解できます。
よりよく生きたいから不安になる
森田療法では、「不安・恐怖」といったネガティブな感情と、「よりよく生きたい」というポジティブな感情を表裏一体ととらえています。
「よりよく生きたい」という思いが強いからこそ、それが「とらわれ」となって不安という感情が生まれてくるのです。
つまり、ネガティブな「不安・恐怖」といった感情にもポジティブな意味があるということです。そこに焦点をあてるということです。
不安は想像が引き起こす
不安や恐怖は避けていればいるほどその感情は強くなります。昔からよく「幽霊の正体見たり枯れ尾花」と言います。幽霊とばかり思って怖がっていたが、思い切って確かめてみたら枯れたススキであったという話です。
不安や恐怖の心でものごとを見ると、悪いほうに想像が膨らんで、ありもしないことに恐れるようになります。
つまり、私たちが今問題にしている不安や恐怖の感情は、“これから何かが起こることを恐れる感情” です。
しかし、それはまだ “実際には起きていないこと” です。あくまでも想像なので、実際とは違うかもしれません。それを体験して確かめる必要があるということです。
《出来ることから始める》
ポジティブな面に目を向ける
不安や恐怖の感情にも意味があるとなれば、そのつき合い方も変わらざるを得ません。
不安か不安でないかを基準にして生きていることは本来の生き方ではありません。
本来の「よりよく生きたい」というポジティブなエネルギーに目を向け、それが実現できるよう行動に結びつけていきます。
気軽に手を出す
具体的には今出来ることから始めます。森田では「気軽に手を出す」ことを勧めています。
例えば、洗濯物をたたんでみるとか、外に出て散歩してみるとか。何でもいい、とにかく一度思考から離れてみることです。
散歩に出てみれば、「あ、ここは初めて来たな」とか「きれいな花が咲いている」とか、とらわれ、行き詰まり、淀んでいた「感情」が自然に流れていきます。どんな行動にもそうした働きがあるのです。
なりきる
ここでのポイントは、散歩なら散歩に心身ともに預けるということです。不安・心配の心を抱えながらではありません。
森田では「なりきる」と言っています。三昧とも言います。
意味や目的を考えずに、心を込めて為すことです。散歩(行動)を味わい、楽しむということです。
こうした行動の積み重ねが成果を生み、生きることの見直しにつながります。
不安・恐怖に自分をさらす
不安や恐怖は避けていればいるほどその感情は強くなります。ですから、それに自分をさらしてみることが必要です。森田療法ではこれを「恐怖突入」と言い、認知行動療法では「曝露」(エクスポージャー)と言います。
森田では、「恐怖突入」をすることによって、自分が思い込んでいる “恐れている事態” が実際には想像とは異なる” ということを、理屈ではなく身体で体験させてくれると言っています。
森田療法では、本当の意味で不安や恐怖のとらわれから脱却するにはこうした体験が必要であると言っています。
《あきらめる》
不安を受け入れるしかない
そうであれば、私たちはその「事実を受け入れる」しかないということになります。
つまり、不安をどうにかしようというすべての努力を放棄しあきらめて、自分の力ではもうどうすることもできないと断念することです。
森田は不安障害に対する心構えを
『弱さになりきると強くなる。“弱くなりきる” ということは人前でどんな態度をとればよいかという工夫の尽き果てた時であり、そこにはじめて突破する道が開かれるのであります』
『勝とうとあせるから負ける。負けるがままに捨て身になれば必ず勝つものです』
と言っています。
具体的には、不安や症状を取り除くはからいをやめてそのままにしておく態度を養う、あるいはそれと折り合いをつけるということになります。
「自分」と「不安」の新しい関係
不安・恐怖とのつき合い方は人さまざまかもしれません。しかし、これまで見てきたように、その実態を知り、その意味を理解することはとても大切なことと思われます。
これまでの「自分と不安」との関係が少しでも変わるきっかけになって頂ければ幸いです。